通説「1 号艇が女子だと飛ぶ」── まず生データ
競艇(ボートレース)は男女が同じ条件・同じレースで走る数少ない公営競技。2022-2026 年に出走歴のある選手のうち、性別が判明した約 1,800 人の 17% ほどが女性だ。「女子が 1 号艇だと信頼できない(荒れる)」というのは、ファンの間でよく語られる経験則。これをデータで確かめる。まずは何も調整せず、1 号艇に乗った選手の性別ごとの 1 着率を見てみよう。
| 1号艇の性別 | 走数 | 1着率 |
|---|---|---|
| 男性 | 220,141 | 55.61% |
| 女性 | 29,724 | 48.93% |
| 差(女−男) | — | −6.68pt |
女性 48.9% に対し、男性 55.6%。差は 6.7 ポイントで、統計的にも確実な差だった。一見すると「やはり女子の 1 号艇は弱い」と読める。だが、これだけで結論を出すのは早い。1 号艇に乗る選手の "級別" が、男女で違う可能性があるからだ。
検証方法
- 期間:2022-01-01 〜 2026-07-08(1 号艇の1着率が構造的に安定している直近の期間。#09 級別の真実と同一の期間・同一の定義を採用し、レース番号は1〜12Rの全レースを対象とした)
- 対象:全国 24 会場の 1 号艇 249,865 走(男性 220,141 / 女性 29,724)。選手の性別は選手データベースに登録された性別情報を使用した(ごく一部を除き、選手ごとに生涯を通じて一貫している)
- 交絡の統制:性別ごとの 1 着率に加え、級別(A1/A2/B1/B2)を揃えたうえで男女を比較し、「能力差」と「級別構成の差」を切り分ける。さらにコース別・会場別にも分解し、差の出方が一様かどうかを検証する
- 統計検定:2 標本比率検定(z 検定)。z 値が大きいほど、その差が偶然で生じた可能性は低い
正体①:女性は "下位級が多い" ── 級別の偏り
男女で 1 号艇選手の級別構成を比べると、はっきりした偏りがあった。ここでの構成比は「1 号艇に実際に乗っている選手」に限定した数字で、全艇・全登録選手をならした構成比とは異なる(1 号艇は好走している選手ほど入りやすい枠のため、全体平均より A 級率が高めに出る)。
| 1号艇選手の級別構成 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| A1 率 | 33.6% | 22.7% |
| A2 率 | 27.2% | 26.8% |
| A級(A1+A2)率 | 60.8% | 49.5% |
| B1 率 | 37.6% | 42.8% |
| B2 率 | 1.6% | 7.7% |
- A 級(A1+A2)率は男性 60.8% に対し女性 49.5% ── 1 号艇に座る男性の 6 割は A 級だが、女性は約半数。これは女子選手の競技人口や養成の歴史的経緯を反映した構成の差
- B2 率は男性 1.6% に対し女性 7.7% ── 最下位級の比率が女性で約 5 倍。級別の検証(#09)で見たとおり、B2 の 1 号艇は 1 着率が 3 割台しかない。下位級が多いほど、平均 1 着率は自動的に下がる
つまり生データの「女性 −6.7 ポイント」には、純粋な実力差ではなく "級別構成の差" が混ざっている。これを取り除くには、同じ級別どうしで比べればいい。
正体②:級別を揃えると、差は 1.8〜4.2 ポイントに縮む
級別を揃えて男女を比較すると、6.7 ポイントあった差は大きく縮小した。
| 級別 | 男性 | 女性 | 差(女−男) |
|---|---|---|---|
| A1 | 71.0% | 66.8% | −4.2pt |
| A2 | 59.2% | 57.4% | −1.8pt |
| B1 | 40.2% | 37.0% | −3.1pt |
| B2 | 34.9% | 32.7% | −2.1pt |
- A2 同士なら 59.2% 対 57.4%(差 −1.8pt) ── 4 階級の中で最も差が小さい。生差 6.7pt の多くは級別交絡だったとわかる
- A1 同士では 71.0% 対 66.8%(差 −4.2pt、z=7.2) ── 4 階級の中で最も差が大きく残る。とはいえ 女子 A1 の 1 号艇は 66.8%。これは「荒れる」どころか、れっきとした堅い水準だ
- B2 同士の差(−2.1pt)は統計的に確実とまでは言えない ── B1・A2の差ははっきり検出できるが、B2は女性のサンプルが少なく(n=2,283)、この階級だけで「女性が弱い」と断定する根拠は弱い
- 級別を揃えても完全にゼロにはならない ── 小さな残差はあるが、その要因(モーター調整・進入のクセ・条件など)は本データだけでは断定できない。少なくとも「6.7 ポイントの差」の大半は級別で説明できる
差の大半は 級別構成の違い。体重の検証と同じく、見かけの差を作っていたのは交絡だった。
I.差はコースによって一定ではない ── 1 号艇(コース1)に集中している
ここまでは 1 号艇(コース 1)だけを見てきた。では 2〜6 号艇でも同じように「女性は男性より 1 着率が低い」のか。全 6 コースで男女別の 1 着率を集計すると、意外な形が見えた。
| コース | 男性1着率 | 女性1着率 | 差(女−男) |
|---|---|---|---|
| 1コース | 55.6% | 48.9% | −6.7pt |
| 2コース | 13.9% | 14.6% | +0.7pt |
| 3コース | 12.6% | 11.9% | −0.7pt |
| 4コース | 10.2% | 8.6% | −1.7pt |
| 5コース | 6.0% | 4.0% | −2.0pt |
| 6コース | 3.3% | 2.0% | −1.3pt |
※コースは艇番で近似(1号艇=1コース)。2022-2026年・全国24会場。男性n=21.4万〜22.0万、女性n=2.97万〜3.64万(コースごとに増減)。
- 差が最も大きいのはコース1(−6.7pt) ── 6コース中、女性が最もはっきり不利なのは、他でもない「1号艇」だった
- コース2だけは女性が男性をわずかに上回る(+0.7pt) ── 統計的にも確実な逆転で、「女性は全コースで一様に不利」という単純な図式ではないとわかる。理由は今回のデータだけでは特定できないが、少なくとも性別の効果は一定方向に働いているわけではない
- 3〜6コースの差は−0.7〜−2.0ptの範囲 ── 統計的には検出できるが、1号艇の−6.7ptに比べれば小さい。「女性は1号艇で特に差が大きい」というのが、6コース通しで見た実態に近い
II.会場によって差の大きさは3〜10ポイント変わる
1号艇の男女差を24会場別に見ると、差の大きさにはかなりの幅があった。とはいえ重要なのは、24会場すべてで女性が男性を下回っており、逆転した会場は一つもないという点だ(コース2で見られたような逆転は、会場別の1号艇では起きていない)。
| 会場 | 男性1着率 | 女性1着率 | 差(女−男) |
|---|---|---|---|
| 多摩川 | 54.10% | 44.49% | −9.62pt |
| 戸田 | 44.62% | 35.07% | −9.54pt |
| 住之江 | 59.32% | 49.79% | −9.53pt |
| 桐生 | 51.67% | 42.22% | −9.46pt |
| 津 | 58.13% | 49.80% | −8.33pt |
| 下関 | 61.27% | 52.95% | −8.32pt |
| 尼崎 | 59.67% | 51.38% | −8.29pt |
| 徳山 | 63.87% | 55.59% | −8.27pt |
| 若松 | 57.99% | 49.92% | −8.08pt |
| 宮島 | 57.28% | 50.19% | −7.09pt |
| 大村 | 63.19% | 56.12% | −7.07pt |
| 蒲郡 | 56.02% | 49.38% | −6.64pt |
| 児島 | 56.48% | 49.85% | −6.63pt |
| 鳴門 | 48.53% | 41.94% | −6.59pt |
| 三国 | 53.65% | 47.48% | −6.17pt |
| びわこ | 54.96% | 49.29% | −5.67pt |
| 唐津 | 54.76% | 49.10% | −5.66pt |
| 丸亀 | 57.15% | 51.55% | −5.60pt |
| 平和島 | 45.87% | 41.08% | −4.79pt |
| 芦屋 | 60.94% | 56.52% | −4.41pt |
| 浜名湖 | 52.12% | 48.09% | −4.03pt |
| 常滑 | 57.70% | 53.74% | −3.96pt |
| 福岡 | 56.77% | 52.84% | −3.93pt |
| 江戸川 | 46.64% | 43.65% | −2.99pt |
※2022-2026年。会場ごとの走数は男性n=8,500〜9,800、女性n=870〜1,470程度。
差の大きさが会場でこれだけ違う理由を、今回のデータだけで完全に特定することはできない。ただし多摩川と江戸川の比較から言えるのは、会場によって変わっているのは女性側の水準ではなく、男性側(=1号艇全体の水準)だということ。会場ごとの1コースの強さの違いについては会場別イン逃げランキング(#10)に詳しい。
読み解き方 ── 性別ではなく「性別 × 級別 × コース」で見る
- 性別だけで評価を下げるのは早計:女子 A1 の 1 号艇は 66.8%、A2 でも 57.4%。級を見ずに性別だけで一律に低く見積もると、実態より過小評価することになる
- 差が集中しているのは「下位級かつ1号艇」の組み合わせ:B1・B2 の 1 号艇は男女とも 3〜4 割台まで下がる。女性でさらに下位級が重なる場合、1 号艇でも 1 着が割れやすい傾向は男性より強く出る
- 結局は級別とコースが主役:#09 級別の真実のとおり、1 号艇の堅さを決めるのは主に級別。性別はその上に乗る比較的小さな要因で、しかもコース1に集中し、コース2以降ではほぼ解消する
結論
- 生データの男女差は 6.7 ポイント ── 1 号艇 1 着率は女性 48.9%、男性 55.6%。統計的にも確実な差(z=21.7)で、通説は一見正しい。
- 正体の大半は級別交絡 ── 1 号艇に乗る女性は A 級率 49.5%(男性 60.8%)と下位級が多く、それが差を膨らませていた。
- 級別を揃えると差は 1.8〜4.2 ポイント ── A2 同士が最も近く(−1.8pt)、A1 同士が最も差が残る(−4.2pt)。女子 A1 の 1 号艇は 66.8% で堅い水準。B2 同士の差は統計的に確実とまでは言えない。
- 差はコース1に集中し、会場でも大きさが変わる ── コース2では女性が男性をわずかに上回り、コース3〜6の差は−0.7〜−2.0pt。会場別の差は−3.0〜−9.6ptと幅があるが、動いているのは主に男性側(1号艇全体)の水準だった。
- 性別単体でなく「性別 × 級別 × コース」で見る ── 体重(#08)と同じ交絡の構図に、コース・会場という新しい軸が加わる。見かけの差に惑わされない。
データが言えること
- 1号艇の男女差6.7ptは統計的に確実(z=21.7、p<0.0001)
- 級別を揃えると差は1.8〜4.2ptに縮小し、大半は級別構成で説明できる
- A1同士でも差(−4.2pt、z=7.2)は残るが、女子A1の1号艇は66.8%で堅い水準
- 差はコース1に最も集中し、コース2では女性が男性をわずかに上回る(z=−3.1)
- 会場別の差(−3.0〜−9.6pt)は女性側でなく男性側の水準変化が主因
言いすぎ注意
- B2同士の差(−2.1pt)はz=1.7・p=0.091で、統計的に確実とまでは言えない
- コース2で女性が上回る理由・会場差が生まれる理由は、今回のデータだけでは特定できない
- 級別・コースを揃えても残る差の要因(モーター調整・進入のクセ等)は未検証
- コースは艇番で近似しており、前づけ等の実進入変更は反映していない
言っているのは 「級別とコースを見ろ、しかも一様ではない」 ── それだけだ。
データに関する注記
- 対象は 2022-01-01 〜 2026-07-08 の 1 号艇 249,865 走(BOATCRAFT データベース、全国 24 会場、全レース番号)。性別は選手データベースに登録された性別情報を使用(男性 220,141 / 女性 29,724)
- 級別の統制は出走時点の級別で実施。級別・コースを揃えても残る差の要因は本データだけでは特定できない
- 「1 号艇 = 1 コース」近似。枠なり進入が大半だが、前づけ等で実進入が異なる場合がある
- 統計検定:2 標本比率検定(z 検定)。z 値が大きいほど、その差が偶然で生じた可能性は低い
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検証データ:2022-01-01 〜 2026-07-08、1 号艇 249,865 走(男性 220,141 / 女性 29,724、全国 24 会場、全レース番号)/ 集計指標:性別別・性別×級別・性別×コース・性別×会場の 1 号艇 1 着率 / 統計検定:2 標本比率検定(z 検定)/ 初出:2026-06-05 / 再集計・深掘り:2026-07-09(統計検定・コース別/会場別クロス集計を追加、DB更新により数値を最新化)