— この記事の要点 —

「昔の 1 号艇は 6〜7 割」という定説を、1999〜2025 年・約 115 万レースで検証した結論:記憶は逆だった。① 1999 年の 1 号艇 1 着率はわずか 22.3%(約 4〜5 回に 1 回)。そこから一直線に上昇し、2018 年前後で 55% に到達して頭打ち。昔のインは むしろ弱かった。② 理由は二つ。要因 1:インそのものが弱かった── 進入 1 コースの 1 着率も 27.7%→55.5%。まくり全盛で、インを取っても外から差された。要因 2:前付けでインを奪われていた── 1 号艇がインを確保できた割合は 55.5%→98.9%。前付け全盛期(改正前の 1999〜2008 年)、1 号艇は インを守れた時 28.6% / 奪われた時 14.5% と 勝率が半分以下に沈み、この差は統計的に確実だった(z=83.4、p<0.0001)。③ 3 つの制度改革(待機行動改正 2009・持ちペラ廃止 2012・出力低減モーター 2014)で「アウト屋が消え・インが守られ・まくりが届かなく」なり、1 号艇は王者になった。各改革の前後比較はすべて統計的に確実(z=26〜50、p<0.0001)。④ そして 2018 年以降の「安定期」は統計でも本物だった ── 2018〜2021 年と 2022〜2025 年を比べても差は z=1.66・p=0.096 で有意差なし。改革期の激変とは明確に性質が違う。⑤ 「江戸川 8 割」は 27 年間で一度もなかった(1999 年 35.0% → 最高でも 52.0%)。ただし全国 24 会場で比べると、今もっとも 1 号艇が勝ちにくいのは 江戸川ではなく戸田(44.3%)で、江戸川は 3 番目に低い会場だった。

定説 ── 「持ちペラ時代の 1 号艇は強かった」

長く競艇(ボートレース)を見てきたファンは、しばしばこう言う。「昔の 1 号艇はもっと勝った」「持ちペラの頃は 6 割、7 割が当たり前」「江戸川は 8 割なんて時代もあった」。そして決まって、こう続く。「あの頃は駆け引きがあった。前付けでコースを奪い合って、引き波にハメて、ダンプで弾き飛ばして……今みたいに枠なりで大人しく回るレースじゃなかった」と。

この昔話には、二つの主張が混ざっている。ひとつは 「昔の 1 号艇(イン)は勝率が高かった」という数字の話。もうひとつは 「昔のレースは駆け引きが激しかった」という雰囲気の話。後者はロマンの領域だが、前者は ── データで白黒つけられる。BOATCRAFT のデータベースには 1999 年 4 月末からの記録が入っており、全国 24 会場・のべ 約 115 万レース分の結果を遡れる。さっそく、記録が残る最初の年まで遡ってみよう。

検証方法 ── 「枠番」と「進入コース」を分けて数える

今回のカギは、「枠番」と「進入コース」を区別することだ。

そこで 3 つの指標を、1999〜2025 年の各年で計算した。

  1. 進入 1 コースの 1 着率:実際にインを取った艇が勝つ確率(=インというコースそのものの強さ)
  2. 枠番 1 号艇の 1 着率:1 号艇が勝つ確率(=みんなが「1 号艇」と呼ぶときの勝率)
  3. 1 号艇のイン取得率:1 号艇が進入でインを確保できた割合(=前付けで奪われずに済んだ割合)

対象は 1999-04-30〜2025-12-31(記録が残る全期間)、全国 24 会場、着順が 1〜6 で確定したレコード、のべ 約 115 万レース。この 3 本を並べると、「1 号艇がなぜ昔は弱く、今は強いのか」が分解できる。

検証① ── 1 号艇の 1 着率、27 年間の軌跡

まず結論のグラフから。赤が 1 号艇(枠番 1)の 1 着率、金が 進入 1 コースの 1 着率、青が 1 号艇のイン取得率。縦の点線は、後で効いてくる 3 つの制度改革だ。

1コース率の推移。1号艇の1着率は2002年23.6%から2025年55.1%へ一直線に上昇(記録の残る1999年はさらに低い22.3%)。進入1コースの1着率も26.9%から55.5%へ。1号艇のイン取得率は73.7%から98.9%へ。2009待機行動改正・2012持ちペラ廃止・2014出力低減モーターの縦線でイン取得率が跳ね上がる
図:自前データ 2002–2025 の推移を可視化(1999〜2001 年を含む全期間の数値は下表)。1 号艇 1 着率は 23.6%→55.1% へ。
1号艇(枠番1)
1着率
進入1コース
1着率
1号艇の
イン取得率
199922.3%27.7%55.5%
200223.6%26.9%73.7%
200524.7%28.0%80.8%
200929.0%33.4%81.9%
201239.3%40.7%95.0%
201545.2%46.1%97.3%
201853.9%54.5%98.4%
202555.1%55.5%98.9%

1999 年、1 号艇の 1 着率はわずか 22.3%。4〜5 回に 1 回しか勝てていない。「6 割、7 割」どころか、その 3 分の 1 強だ。そこから年を追うごとに一直線に上がり、2018 年前後で 55% に到達して、現在は 55.1% で頭打ちになっている。

統計メモ:1999年(n=25,139)と2025年(n=54,459)の1号艇1着率の差(22.30%→55.10%)は偶然では説明できない水準(z=86.51, p<0.0001)。1年ではなく期間で区切り、1999〜2001年ブロック(n=100,046、22.94%)と2018〜2025年ブロック(n=434,173、55.29%)を比べても結果は同じ(z=184.53, p<0.0001)。切り方を変えても、上昇は統計的に確実
昔の 1 号艇は、6〜7 割どころか 22%
「強かった」のではなく、むしろ 弱かった

「6〜7 割」という記憶は、おそらく 今の数字(55%)を、さらに大きく覚え違えたものか、あるいは 大村のような一部のイン天国の会場の印象が、全体の記憶にすり替わったものだろう。では、なぜ昔のインはこんなに弱かったのか。理由は二つある。

検証② ── 要因 1:インというコースそのものが弱かった

表の真ん中の列、進入 1 コースの 1 着率を見てほしい。これは「枠番 1 号艇」ではなく 「実際にインを取った艇」が勝つ確率だ。前付けの影響を外して、インというコースそのものの強さを測っている。

その数字も、1999 年は 27.7%。今の 55.5% の半分程度だ。つまり昔は、誰がインを取ろうと、インというコース自体が勝ちにくかった。理由は、当時の競艇が 「まくり全盛」だったから。

当時は 阿波勝哉・澤大輔といった名うての「アウト屋」が活躍し、6 コースからまくる派手なレースが現実的な戦法として成立していた。ベテランが語る「駆け引きの競艇」は、この "インが絶対ではない" 構造があってこそだった。雰囲気の話のほうは、実は正しい。

検証③ ── 要因 2:前付けで、インを奪われていた

もう一つの要因が、いよいよ 前付けだ。表の右の列、1 号艇のイン取得率を見ると ── 1999 年は 55.5%。つまり昔の 1 号艇は、約 2 回に 1 回しか、進入でインを確保できていなかった。今(98.9%)とは別世界だ。

「コース取りの激しさ」を別の角度から見てみる。1 艇でも枠と違うコースに動いたレースの割合を年ごとに出すと、こうなる。

コース取りが起きたレースの割合
199989.4%
200281.5%
200964.3%
201050.8%
201237.2%
201825.6%
202518.5%

1999 年は 10 レースに 9 つでコース取りが起きていた。まさに「駆け引きの競艇」だ。それが今は 5 レースに 1 つ弱。ベテランの記憶どおり、昔のレースが格闘技みたいに激しかったのは、本当だった。

では、インを奪われた 1 号艇はどうなったか

ここが、この記事のいちばん面白いところだ。前付け全盛期(待機行動改正前の 1999〜2008 年)の 1 号艇を、「インを守れたレース」と「前付けでインを奪われたレース」に分けて、勝率を比べてみる。

1号艇の状況(1999〜2008)対象走数1着率
インを守れた264,66028.6%
前付けでインを奪われた87,85814.5%
統計メモ:前付け全盛期(1999〜2008年、待機行動改正前の完全な年のみ)、インを守れた1号艇(n=264,660、28.58%)と奪われた1号艇(n=87,858、14.50%)の1着率差は偶然では説明できない水準(z=83.43, p<0.0001)。

インを奪われた瞬間、1 号艇の勝率は 28.6% → 14.5% へ。約 2 倍の差、ほぼ半分に沈む。当時の 1 号艇にとって、前付けは「されたら終わり」の死活問題だった。「4 号艇でも前付けしてインを取った奴が勝つ=前付けで勝負が決まっていた」── ベテランが語るその実感は、データにくっきり刻まれている(このペナルティが今どうなっているかは、後述の 深掘り② で扱う)。

検証④ ── 「江戸川 8 割」は、本当にあったのか

ベテランの証言で最も具体的だったのが 「江戸川は 1 号艇 8 割の時代もあった」。これも名指しで確かめよう。江戸川(荒れ水面で有名な日本唯一の河川コース)の 1 号艇 1 着率を、年ごとに出した。

江戸川 1号艇 1着率
199935.0%
200235.1%
201033.6%
201541.7%
201950.9%
2024(観測史上の最高)52.0%
202547.5%

江戸川の 1 号艇 1 着率は、1999 年で 35.0%、27 年間で最も高かった年(2024 年)でも 52.0%。8 割に達した年は、一度もない(1999 年と 2024 年の差自体は統計的に確実だが、z=9.99, p<0.0001、それでも 8 割の半分強にとどまる)。それどころか江戸川は、今でも全国で 1 号艇が勝ちにくい会場のひとつだ(全国平均 55% に対し直近は 47〜51%)。荒れ水面という性格は、昔も今も変わっていない ── ただし「全国で一番勝ちにくい」のが江戸川かどうかは、実は違う。24 会場を並べた 深掘り③ で詳しく見る。

「江戸川 8 割」は、27 年間どこにも存在しなかった。
記憶のなかだけで、インは 勝ち続けていた

なぜインは王国になったのか ── 3 つの制度改革

では、22% だった 1 号艇は、どうやって 55% の絶対王者になったのか。グラフの縦線、3 つの制度改革が分岐点だ。

① 2009 年 5 月:待機行動の改正 ── 前付けが死んだ

スタート前の蛇行や時間稼ぎが禁止され、先に基準線に達した艇からイン順に並ぶルールになった。これで 前付け(助走を取ってのコース取り)が事実上できなくなり、「枠なり進入」が主流に。グラフの青線(イン取得率)と、コース取り率が 2009→2012 年にかけて急変しているのが、この効果だ(コース取り率 64%→51%→37%)。

② 2012 年 4 月:持ちペラ廃止 ── アウト屋が消えた

選手が自前で持ち込んでいたプロペラが廃止され、ボート場が貸し出す共通ペラに。伸び型に磨き上げた「まくり専用兵器」が使えなくなり、機力が均一化した。アウトから一発のまくりで勝つスタイルが成立しにくくなり、「アウト屋」は絶滅危惧種になっていく。

③ 2014 年 12 月:出力低減モーター ── まくりが届かない

最高出力を 1 馬力下げたモーターが導入され、3 周のタイムが約 2 秒遅くなった。パワーが落ちたぶん、外から差し・まくりが「届かない」。インが先マイしてしまえば、後ろからは抜けない ── 逃げ天国の完成だ。

この 3 つが重なって、「アウト屋が消え」「1 号艇がインを守れるようになり」「まくりが届かなくなった」。インが弱い理由(要因 1)も、奪われる理由(要因 2)も、両方が同時に解消された。だから 1 号艇は 22% から 55% へ、四半世紀をかけて駆け上がったのだ。これは言い換えれば、「アウト屋と駆け引きが消えていった 27 年」の記録でもある。ここからは、この上昇が本当に「安定」に着地したのか、そして 24 会場すべてが同じ道を歩んだのかを、統計検定つきでさらに掘り下げる。

I.「安定期」は本当に安定か ── プラトーを統計で検証する

ここまでの数字は「2018 年前後で 55% に到達し、頭打ちになった」という話だった。だが 「頭打ち」は感覚的な表現にすぎない。改革前の急上昇と、改革後の"安定"は、統計的に見て本当に性質が違うのか ── 5 つの時代ブロックに分けて、隣り合う区分どうしを比率検定で比べてみる。

期間走数1号艇1着率直前区分との差
1999〜2008(前付け全盛期)362,32225.1%─(基準)
2009〜2011(待機行動改正後)113,89732.6%z=49.67, p<0.0001
2012〜2014(持ちペラ廃止後)118,74741.4%z=43.78, p<0.0001
2015〜2017(出力低減後)102,90746.9%z=25.98, p<0.0001
2018〜2025(安定期)434,17355.3%z=48.72, p<0.0001
├ 2018〜2021(安定期・前半)215,80555.2%
└ 2022〜2025(安定期・後半)218,36855.4%z=1.66, p=0.096(有意差なし)
統計メモ:1999〜2008年から2025年までの4回の区分間比較は、いずれもz=26〜50、p<0.0001と偶然では説明できない水準の変化。ところが「安定期」内部を前半(2018〜2021)と後半(2022〜2025)に割っても比べると、差はわずか0.25ポイント(55.17%→55.42%)でz=1.66, p=0.096。慣例的な有意水準(p<0.05)を満たさない。改革のたびに起きた激変と、安定期内部の変動は、統計的に別種の現象と言える。参考までに2026年(1〜7月時点、通年未確定)も55.9%で、プラトーはさらに1年分積み上がっている。

数字で見ても分かるとおり、改革が起きるたびの変化は例外なく統計的に確実だった一方、"安定期"に入ってからの 8 年間は、前半・後半で比べても偶然の範囲を出ない。「2018 年で頭打ちになった」という表現は、感覚的な誇張ではなく、統計的にも裏付けられたプラトーだったということだ。

II.前付けを失った 1 号艇 ── ペナルティは、今も消えていない

前付け全盛期の 1 号艇は、インを奪われると 1 着率が 28.6%→14.5% まで沈んだ(検証③)。では 前付けがほぼ絶滅した今の安定期(2018〜2025 年)で、同じように "たまたま" インを奪われた 1 号艇は、どうなっているのか。件数はごく少数(当時の前付け全盛期に比べて 20 分の 1 以下)だが、比べてみる。

時代インを守れた
走数 / 1着率
インを奪われた
走数 / 1着率
1999〜2008(前付け全盛期)264,660 / 28.6%87,858 / 14.5%
2018〜2025(安定期)407,977 / 55.8%4,951 / 12.4%
統計メモ:安定期のインを守れた1号艇(n=407,977、55.80%)とインを奪われた1号艇(n=4,951、12.42%)の差も、前付け全盛期と同様に偶然では説明できない水準(z=61.02, p<0.0001)。さらに「インを奪われた」場合の1着率だけを時代間で比べると、14.50%(1999〜2008)→12.42%(2018〜2025)で、これも統計的に確実な差(z=4.06, p=0.00005)。一方「インを守れた」場合の1着率は28.58%→55.80%で、当然ながら圧倒的な差(z=219.18, p<0.0001)。

ここに、見落とされがちな逆説がある。1 号艇が前付けでインを失うことは、今や年間走数の 1.2% ほどのレアケースになった。だが、その稀な状況に陥った 1 号艇の 1 着率(12.4%)は、前付けが日常茶飯事だった時代(14.5%)より むしろ低く、統計的にも確実に悪化している。理由は検証②で見た「まくりが届かない」時代の裏返しだ ── 今の競艇は 先マイした艇が圧倒的に有利な設計になっているぶん、逆に先手を取れなかった 1 号艇が挽回する余地も、当時より小さくなっている。「前付けは滅多に起きない。でも、起きたらより致命的」というのが、今の実態だ。

III.24 会場、同じ坂を登ったわけではない ── 王国化のスピード格差

全国平均では 1 号艇は 22% から 55% へと駆け上がった。だがこれは 24 会場の平均であって、会場ごとに上昇のスピードはまったく違う。各会場の 1 号艇 1 着率を、記録初期(1999〜2003 年)と直近(2021〜2025 年)で比べ、上昇幅(ポイント差)の大きい順に並べた。

会場1999-03
1着率
2021-25
1着率
上昇幅
徳山20.0%63.2%+43.2pt
芦屋22.4%61.4%+39.0pt
大村25.0%63.2%+38.2pt
尼崎22.1%59.6%+37.5pt
下関23.5%60.7%+37.2pt
若松22.9%57.6%+34.7pt
宮島22.5%57.2%+34.7pt
唐津20.3%54.6%+34.3pt
びわこ21.1%55.0%+33.8pt
常滑24.1%57.8%+33.7pt
住之江25.0%58.7%+33.7pt
児島22.5%56.2%+33.7pt
福岡22.5%55.8%+33.3pt
蒲郡22.9%55.5%+32.6pt
丸亀24.9%56.7%+31.9pt
桐生20.5%51.9%+31.4pt
26.5%57.6%+31.1pt
三国23.7%54.4%+30.8pt
多摩川22.7%53.2%+30.5pt
浜名湖23.3%52.5%+29.2pt
鳴門23.7%48.7%+24.9pt
戸田20.9%44.3%+23.3pt
平和島22.4%45.6%+23.2pt
江戸川35.8%46.9%+11.2pt

※各セルの走数はおよそ 6,500〜7,600(1999-03)/10,400〜12,000(2021-25)。1999-03 は 1999 年 4 月末以降のデータのため他期間よりやや少ない。

上位 3 会場(徳山・芦屋・大村)は 38〜43 ポイントも跳ね上がり、"インの王国" の主役になった。現在もっとも 1 号艇が堅いのは 大村と徳山(ともに 63.2%)だが、この 2 場の差は統計的には タイ(z=0.08, p=0.94)。「大村が日本一」という通説も、今は徳山と並んでいる。

一方で下位 4 会場(江戸川・平和島・戸田・鳴門)は上昇幅が 25 ポイント以下にとどまり、全国の"王国化"から明確に取り残された。しかもこの 4 会場は、検証ラボ #09(級別の真実)が 2022〜2026 年の A1 級 1 号艇だけで独立に調べたときも「他の 20 会場と明確に違う水面性質を持つ」と名指しした、まさに同じ 4 会場だ。切り口の違う 2 つの検証が同じ結論にたどり着いたことになる。

統計メモ:現在の最下位・戸田(44.25%)と3番目に低い江戸川(46.94%)の差もz=4.01, p=0.000061で偶然とは言えない。つまり「今もっとも1号艇が勝ちにくいのは江戸川」ではなく、戸田が全国最下位、江戸川は3番目というのが正確な序列。

ただし江戸川と戸田では、「取り残された理由」がまったく違うことも分かった。1999〜2003 年のコース取り率を比べると:

江戸川については、前付けがほぼ消滅した直近(2021〜2025 年、コース取り率わずか 0.6%)でも、実際にインを取った艇(枠番に関係なく進入 1 コース)の 1 着率が 47.0%(n=10,455)にとどまり、他会場平均の 56.1%(n=249,047)を有意に下回る(z=18.41, p<0.0001)。前付けがほぼ無くなった今も差が残っているということは、これはもう前付けの後遺症ではなく、荒れ水面という会場の性質そのものだと言える。

結論

  1. 「昔の 1 号艇は 6〜7 割」は記憶違い ── 記録が残る 1999 年の 1 号艇 1 着率はわずか 22.3%。今(55.1%)の半分以下で、むしろ昔のインは弱かった(z=86.5、p<0.0001)。
  2. 弱かった理由は二重苦 ── ① インそのものが弱い(進入 1 コース 1 着率も 27.7%=まくり全盛)+② 前付けでインを奪われる(イン取得率 55.5%)。奪われた 1 号艇の勝率は 14.5% まで沈んだ。
  3. 「安定期」は統計的にも本物のプラトー ── 改革ごとの変化はすべて p<0.0001 で確実だったのに対し、安定期内部(前半 vs 後半)はz=1.66・p=0.096で有意差なし。2018 年以降の頭打ちは感覚ではなく統計で裏付けられる。
  4. 前付けのペナルティは今も健在、むしろ悪化 ── 安定期にたまたまインを奪われた 1 号艇の 1 着率は 12.4%で、前付け全盛期の 14.5%より統計的に確実に低い(z=4.06、p=0.00005)。レアケースだが、より致命的になった。
  5. 「江戸川 8 割」は 27 年間ゼロ ── 江戸川の 1 号艇は 1999 年 35.0%、最高でも 52.0%。8 割の年は存在しない。ただし今もっとも 1 号艇が勝ちにくいのは江戸川ではなく戸田で、江戸川は全国 3 番目の低さ(この 4 会場は検証ラボ #09 とも一致)。
  6. 王国を作ったのは 3 つの制度改革 ── 待機行動改正(2009)で前付けが死に、持ちペラ廃止(2012)でアウト屋が消え、出力低減(2014)でまくりが届かなくなった。各改革の前後比較はすべて統計的に確実(z=26〜50)。
  7. でも「駆け引きの競艇」は本当にあった ── 1999 年はコース取り率 89.4%(10 レースに 9 つ)。ベテランの語る "格闘技みたいな競艇" は、データもはっきり認めている。

データが言えること

  • 1号艇の1着率は1999年22.3%→2025年55.1%へ統計的に確実に上昇した(z=86.5、p<0.0001)
  • 2018年以降の「安定期」は統計的にも本物(前半vs後半でz=1.66、p=0.096は有意差なし)
  • 前付けで今もインを奪われると1着率は12.4%まで沈み、これは前付け全盛期の14.5%より統計的に確実に低い(z=4.06)
  • 「江戸川8割」は27年間存在しないが、現在の全国最下位は戸田(44.3%)で江戸川(46.9%)は3番目

言いすぎ注意

  • 進入コース(entry_position)は2004年以降のレコードで約5%が欠測しており、その分は各集計の母数から除外している
  • 1999〜2017年は収録レース数が国内全レースの一部にとどまる年がある(1999年は年あたり約2.6万、2018年以降は約4.2〜5.5万=ほぼ全レース)。上昇の向きと水準は頑健だが、絶対値は参考値として扱う
  • 会場別の「上昇スピードの違い」の背景(水面の広さ・潮汐・地形)は江戸川以外は仮説段階で、直接検証したのは江戸川のみ
  • 制度改革を分岐点として参照しているが、各年の上昇幅をいずれか一つの制度だけに帰属させるものではない

ベテランの昔話のうち、「勝率」の記憶は、データと逆だった。1 号艇は昔のほうが弱かった。でも ── 前付け、コースの奪い合い、引き波、ダンプ。あの "駆け引きの競艇" が確かに存在したことは、コース取り率 89.4% という数字が、むしろ証明している。記憶違いだったのは勝率だけで、あの時代の迫力そのものは、本物だった。

思い出は、美化される。
でも「あの頃は駆け引きがあった」は ── データも認めている。

データに関する注記

検証データ:1999-04-30 〜 2025-12-31、全国 24 会場・のべ 約 115 万レース(BOATCRAFT データベース)/ 指標:進入 1 コース 1 着率・枠番 1 号艇 1 着率・1 号艇イン取得率・コース取り発生率・前付け期と安定期の 1 号艇勝率分解・江戸川と戸田の年次 1 号艇 1 着率・全 24 会場の上昇幅クロス集計 / 統計検定:2 標本比率検定(z 検定)/ 最終更新:2026-07-09

「昔は強かった」も、データで確かめる。

競艇は四半世紀で別物になった。インが弱い時代も、まくりが届いた時代も、確かにあった ── そして今は逃げ天国だ。ルールが変われば、勝ち筋も変わる。BOATCRAFT は 選手 × コース × 級別 × モーター × 展示 × 会場のクセ を統合し、"今の競艇" にチューニングした AI が毎レース各艇の確率を計算する。23 つまみ で、自分の狙いに合わせて予想を組み立てよう。

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